Neem
奇跡の木「Neem(ニーム)」
エコロジアでは、天然資材を活用した持続可能な農業を追求しています。
その一環として注目しているのが、「Neem(ニーム)」を活用した農法です。
Neem(和名:インドセンダン)はセンダン科に属する常緑樹で、高さは 15~20 メートルにもなります。原産国のインドをはじめとした南東アジア地域やアフリカに広く分布しており、やせた乾燥地でもよく育ち、害虫に強い特性があることから、乾燥地帯の緑化にも利用されています。
ニームはインドの伝統文化に深く根付いており、サンスクリット語では「病気の救済者」を意味する別名を持っています。ヒンドゥー教においては女神の化身とされ、家の周りに植えることで家族の健康と繁栄をもたらすと信じられていました。遥かインダス文明の時代から「神聖な木」や「災いを祓う木」などの呼び名で呼ばれ、病気や災いを退けるのに役立つハーブとして何世紀にもわたり利用されています。
現代のインドにおいても、その生活とニームは密接に関係しています。現地の人々はニームの木を「どんな病気でも治してくれるお医者さんのような木」「村の薬屋さん」と呼んで親しみ、その薬効を日常生活に取り入れています。
ニームの葉を煮出して作るニーム茶は、現地では健康飲料として知られています。とても苦いため、他のハーブとブレンドして飲むことが一般的です。ニームは消化を助けるとともに、肝機能をサポートし、体内の毒素を排出するデトックス効果もあるとされています。特に、葉や樹皮から抽出された成分は、消化不良や胃腸の不調を改善するために使用されます。
乾季の終わりから雨季の始まりにかけて(3~5 月ごろ)よい香りのする白い花が咲き、その後にオリーブに似た果実をつけます。この花も食材として利用されています。
その種子には病害虫忌避成分を多く含み、種子から抽出されるニームオイルは防虫剤や薬として古くから利用されてきました。
さらに、ニームオイルを絞った後に残った種子殻はニームケーキと呼ばれ、これも高い病害虫予防効果を持っています。
ニームは発展途上国に多い感染症や風土病に対して予防や治療に有効であることから、近年では「奇跡の木」「ミラクルニーム」としても知られるようになってきました。
Neemの成分と働き
インドの伝統的な医学「アーユルヴェーダ」では、ニームの樹皮や葉、果実、種子、花、根の全てに薬効があるとされ、重宝されてきました。近年の研究によって、その薬効は科学的に証明され始めています。
ニームの有効成分のひとつである「Azadirachtin(アザディラクチン)」は、250 種類をこえる多くの害虫に対して、摂食抑制効果や成長阻害効果を持つことが確認されています。アザディラクチンには昆虫のホルモンバランスを乱し、脱皮や繁殖を阻害する効果があります。この成分はニームの学名「Azadirachta indica」に由来し、1959 年にスーダンで起きたサバクトビバッタの大量発生(蝗害)の際、ニームが食害を受けなかったことからその効果が認められ、現代におけるニームの科学的な見地に立った研究が活発化するきっかけとなりました。
ニームにはアザディラクチンをはじめ、代表的な 8 種類の有効成分が含まれており、それぞれ下表に示すような効果・効能を有します。
有効成分 | 効果・効能 |
---|---|
アザディラクチン(azadirachtin) | (昆虫・線虫に対し) 忌避 , 摂食阻害 , 抗ホルモン |
サランニン(salannin) | (昆虫・線虫に対し)忌避 |
ニンビン(ninbin) | 抗炎症 , 解熱 , 抗ヒスタミン , 抗真菌 |
ニンビディン(ninbidin) | 抗細菌 , 抗潰瘍 , 鎮痛 , 抗不整脈 , 抗真菌 |
ニンビオール(ninbiol) | 抗結核 , 抗原虫 , 解熱 |
ゲデュニン(gedunin) | 血管拡張 , 抗マラリア , 抗真菌 |
ニンビネットナトリウム(Sodium-nimbinate) | 利尿作用 , 殺精子 , 抗関節炎 |
ケルセチン(quercetin) | アレルギー抑制 , 抗ウイルス , 抗酸化 , 抗炎症 , 抗細菌 |
これらの成分は人体には無害であるため、ニームは安全性の高い素材として注目され、天然の防虫剤や医薬品として利用されています。
Neemの活用
ニームの利用方法は多岐にわたり、農業、医療、美容などさまざまな分野で活用されています。ここで、実際の利用方法の一部をご紹介します。
農業分野
250 種類以上の昆虫・線虫に対する忌避効果を有し、また真菌やカビ、植物に感染するウイルスや細菌に対しても有為な効果を有することから、環境負荷の少ない病害虫防除・土壌改良の手段として研究・活用が盛んに行われています。
日常的な害虫対策
ゴキブリやアリなどの生活害虫の繁殖を防ぐほか、衣類を虫食いから守るなどの日常における害虫対策にも有効です。また、ニームオイルを肌に塗布すれば天然の虫除けとなり、蚊やダニが媒介するマラリアやデング熱といった感染症対策にもなっています。
医療分野
アーユルヴェーダでは数多くの薬効があるとされ、古くから内服薬や外用薬として治療に用いられてきました。近年の研究によって、ニームが抗炎症・抗菌・抗ウイルス効果をもつ成分を含むことが科学的に証明されています。またニームの持つ抗アレルギー効果が注目されており、アレルギー体質の改善などに効果が期待され、研究が進められています。
食材としての活用
葉や新芽、花などが古来より食用とされています。上述の薬効のほか、葉には多くのポリフェノールやフラボノイドが含まれており、強い抗酸化作用をもたらします。抗酸化物質には体内の活性酸素を中和する働きがあり、老化防止やがん予防に役立つとされています。
免疫機能の調整
古来よりアーユルヴェーダでは、体の免疫バランスを整えるために使用されてきました。ニームの成分には免疫細胞の活性化を助ける効果が期待されています。
公衆衛生
ニームには殺菌作用・除菌作用があり、インドでは古くから出産時の産湯にニームの葉を入れ、子供を沐浴させる習慣があります。またニームを使った固形石鹸やシャンプー、洗顔フォームなどはインドのみならず欧米やここ日本においても販売されており、人気を博しています。
オーラルケア
インドやヨーロッパではニームの葉を配合した歯磨き粉が販売されているほか、インドではニームの小枝そのものを歯ブラシ代わりに使用する習慣があり、歯や口腔の健康を保つために利用されています。
国際協力
ニームは、発展途上国における食糧増産、健康増進、環境保護に貢献することが期待されています。
そのため、国際機関や NGO などが中心となり、ニームの植林プロジェクト、ニーム製品の生産・販売支援、ニームに関する教育・研修などが実施されています。
おわりに
ニームの活用は、食糧問題、環境問題、健康問題など、様々な分野で注目され、さらなる研究が進められています。もしかすると地球規模の課題を解決する可能性を秘めた、まさに「奇跡の樹」です。
もちろん前項で述べた通り、農業においても病害虫防除や土壌改良に非常に効果的です。ニームはその薬効の高さに加え、自然由来の成分であることから、環境負荷が少ないという特長があります。土壌や生態系のバランスを保つことで、より安全で安心な食材を提供することができます。
これは、エコロジアの目指している未来へと繫ぐ農業を実現する一助となるものです。
参考文献
「ニームは地球を救う ―人間と自然との共生―」
編:NPO 法人日本ニーム協会 著:稲葉 眞澄 出版:2007 年(株式会社プロスパー企画)